歓喜の歌

歓喜の歌
2007年の日本映画,114分
監督 松岡錠司
キャスト 小林薫、安田成美、伊藤淳史、由紀さおり、浅田美代子、藤田弓子、根岸季衣
とある地方の都市みたま市の文化会館はやる仕事もあまりなく、主任の飯塚も無気力に過ごしている毎日なのだ。年の瀬も押し迫った12月30日のことなのだ、利用者からの電話で翌日の予約を確認した飯塚に部下の加藤がダブルブッキングではないかと指摘するのだった…
立川志の輔の同名新作落語が映画化になったのだ。個性的なキャストたちによる落語の世界をとてもうまく表現したハートフルなコメディな映画なのだ。
古典落語の映画化というなら川島雄三の「幕末太陽傳」といっても居残り左平次をベースに複数の話を組み合わせたものが思い出されてしまうのだが、立川志の輔の新作落語の映画化というのは初めてなのだ。古典落語というのは必ずといいほど舞台背景が当然江戸時代なのだが、新作落語は現代の場合が多いので、映画化するにはやりやすいのだが、落語と映画は娯楽の両極端にあるから相性が悪いのだ。まったく仕事にやる気の無い公民館の職員がダブルブッキングに直面して慌てふためいてしまう。彼にはさら年末の2日間が想像もできないくらいのドタバタになるのだった。ストーリーの中心は飯塚主任なのだが、彼のだらしなさや意気地のなさが見る人に反感を引き起こさせ、そこから様々なトラブルが笑いを誘ってしまうのだ。彼のお調子者で場当たり的なキャラがなんとも絶妙でおかしいのだ。彼の周りにいろいろのキャラが配されて小さな笑いを次から次と繰り出してくるのだ。その脇のキャラのそれぞれにもストーリーがあり、たくさんの人々がへんな関係でつながっているのだが、単なるストーリーを進めるための関係というわけではなく、心理の襞に至るまで丹念に描
かれているのだった。セレブな塾女達が集っているコーラスサークルなのである「みたまレディースコーラス」はただの図々しいいけ好かないおばさんたちの団体かと思いきやいけすかない塾女達にもなんとなくストーリーがあるので憎まれ役で終始するには終わらない。他方の「みたま町コーラスガールズ」のリーダー役である安田成美が演じている五十嵐純子が介護の仕事をしているというのも単に彼女の人柄を示していて、安田成美がコーラス隊の一員ではなく指揮者だというのだから驚きである世代にとっては納得のキャスティングだ。
いろいろな人たちが小さなストーリーを抱えていて、それが集まってしまうとひとつの物語になるというのは、手品のような不思議な物語を抱えて生きているものとしてリアリティを感じることができるのだ。映画はコメディ映画だが、同時にヒューマン・ドラマでもあり、うかうかしていると感動してしまったりもする。